水球日本代表がリオデジャネイロ五輪出場を決定

先日、アジア予選で王者カザフスタンとライバル中国を破り、ロサンゼルス以来32年ぶりのオリンピック出場を決めましたが、これは革命的なことです。私は少しばかりですが水球経験者なので、脳味噌が吹っ飛ぶくらい驚きました。



世界初「パスライン・ディフェンス」が五輪に導く

【水球】中国撃破でリオへ!日本代表を強くした「秘策&完全拘束」

大本洋嗣HCが用意した秘策は、「パスライン・ディフェンス」と呼ばれるハイリスク・ハイリターンなディフェンスでした。「超攻撃的でカウンター狙い」とも称されますが、その中身は想像するだけでも恐ろしいモノです。水球は普通、ゴールキーパーと攻撃選手の間に入って(シュートライン・ディフェンスで)マンツーマンで守備をするのですが、パスライン・ディフェンスではパスコースに身をおいてパスカットを狙うため、いったん綺麗にパスが通ってしまうと、攻撃選手にゴール近くまで攻め込まれてシュートを打たれるリスクが高いです。これは特にサイドでその傾向が高くなります。

2015 FINA Men's Intercontinental - JPN - USA

上記は昨年のインターコンチのアメリカ戦の動画ですが、開始早々に2失点しており、いずれもパワーで左サイドを破られています。水球はゴールキーパー1人と、フィールダー6人(フローター、左右のサイド、左右の45度、トップ)からなりますが、バスケットのセンターに相当するフローターと、左右のサイドのプレイヤーはゴールキーパーに一番近い位置にいます。そのため、ここでシュートを打たれることは失点への直結を意味するため、密着マンツーでゴールキーパー側に身体を置いてディフェンスするのがセオリーなのですが、大本監督は敢えてココでもリスクを負う決意を見せています。

水球の得点パターンは幾つかあります。

①強いフローターがマンツーマンの守備選手(フローターバック)を回し込んで(背負ったまま180度回転して)シュートを打つ。
②サイドや45度やトップの選手がコンビネーションの動きからミドルシュートを狙う。
③ペナルティを奪って(いはゆる退水の)人的有利状態を作る。
④ペナルティシュート(サッカーで言うところのPK)を貰う。
⑤守備から攻撃に転じた際に相手選手を振り切ってゴールキーパーとの1対1を作る。

だいたいこんなカンジなのですが、大本監督は⑤のカウンターに賭けました。簡単に言えば開き直りで、以下のようなロジックになります。

・セオリー通り①や②などのセットプレイ中心に戦えばパワーに優る外国人に勝てない。
・サイズで劣る日本人が普通にやっても③や④の状況を作ることが難しいことは歴史が証明している。
・それならばリスクを負ってでも⑤の速攻に賭けるべきである。

カウンターの機会を増やすベストの方法は何でしょうか? それは、好守が入れ替わったときの、相手の攻撃選手との「ヨーイドン」の位置を変えることです。普通の戦術だと自分の身体は相手よりも自陣側にあるので、ヨーイドンの位置で負けています。これをパスカットの位置、つまりほとんど真横にいるようにすれば、ヨーイドンがほとんど同じ場所になり、スピードさえ優っていれば「抜ける」というビッグチャンスが容易に作れます。いったん抜けてしまえば相手の反則も期待でき、攻撃に希望が膨らみます。

サッカーのミキッチvs長友を想像してみてください(爆) ミキッチに抜かれまいと引いてばかりいたら、左サイドの長友は攻撃に参加できません。逆に、ミキッチの真横、オフサイドラインに近い高い位置にポジショニングすれば、長友は攻撃参加しやすくなります。仮に長友のスピードがミキッチよりも上ならば、ミキッチは下がり目にならざるを得ず、ミキッチの攻撃参加の機会も減ってくることになります。長友がミキッチを抜いてパスが来ればゴールキーパーとの1対1が待っていると。

パスライン・ディフェンスは、実際には「机上の空論」としか思えないモノです。例えば、大学生vs中学生とか、体力差と泳力差のある試合なら、パスライン・ディフェンスは非常に有効です。ところが、体力が互角ならとてもこんなリスクを負うことはできず、マンツーマンにならざるを得ないのが普通です。でも、大本監督はパスライン・ディフェンスを選びました。ゴールキーパーの地力を上げ、フィールダーの泳力を徹底的に鍛え、「水中から飛び上がる」という苦しくて苦しくて仕方の無い作業を反復し、世界を驚かせるようなチームを作り上げました。まさに、ラグビーの日本代表に通じるような圧倒的なハードワークと世界一のフィットネスが大前提になります。この「言うは易く、行うは難し」を地で行くイバラの道をクリアした大本監督には賞賛の言葉を惜しみません。

ところで、パスライン・ディフェンスという発想はどこから来たのでしょうか? これは私の想像ですが、大本監督が現役時代にフローターバックだったからではないかと思います。普通の戦術を採用していても、パスカットを狙う(真っ直ぐにパスを入れさせない)ためにしばしば「攻撃選手とゴールキーパーとの間」にポジショニングしない守備選手がいて、それがフローターバックです。特に相手のフローターがとても強い選手の場合、パスを通されると自分が回されて失点する可能性が高くなるので、ゴールキーパーと協力しながらフローターをハサミ撃ちにするようにすることが多いのです。大本HCは現役時代の自分の経験を糧に、コレをフィールダー全員に徹底させるという理想を優先させ、現実化しました。

まさに、「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」という上杉鷹山の教訓を想起させる鉄の意志。エディ・ジョーンズ同様、世の中には「やるべきことをやる」人間もいるのだと、明るい気持ちになれるニュースでした。

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by bufbills | 2015-12-23 00:47 | Privates | Comments(4)
Commented by SLEEP at 2015-12-24 18:04 x
つよそう(こなみ)

サッカーで言うとズデネク・ゼーマン率いるゼーマンフォッジャを思わせますね。カテナチオ全盛の1-0で勝つのが大正義だったイタリアで取られたら取り返して4-3で勝つんじゃボケ!GK含めて11人全員で走り回ってゾーンからカウンターで勝つんじゃボケ!という姿勢は完全に0チOイですが大好きでした、現代のポゼッションサッカーにも受け継がれてますし、元日本代表監督のザッケローニも影響を受けてますね。

何が言いたいかというとラヴィー・スミスHCのラムズが見たい、今のメンバーでタンパ2を見たいそれだけです、

Commented by bufbills at 2015-12-25 00:31
杉山茂樹の本に「この人ほどオーラを発している人は知らない」と書かれていたのがゼーマンですね(笑) 守備的な3-4-1-2のことを「7-1-2と言うべきだ」と豪語していました。ともかくアグレッシブに動いてプレスを掛けてボールを奪って即カウンターを狙う、好守の連動性を理詰めで考え出された芸術に変幻させるモチベーションが傑出しています。

タンパ2もまずDLの4メンラッシュに掛かっていますが、やはりサップのようなパスラッシュDTがいないと威力半減ですよね。確かに今のラムズにはメンバーが揃っているのでオモシロイかと。QBをパニックに陥れて、人口密度の高い10yds以内のゾーンにパスを投げさせれば自ずからターンオーヴァーの嵐が待っていると。ハマったときの痛快さはブリッツを決める以上のhavoc、少なくともMaddenならディフェンスだけでスーパー制覇できそうです(爆)

思想信条のイカレタ人がいないと「革命」という名の戦術的進歩は起こりません。personnelレベルでの有利さが全くないので、大本監督のイカレぶりは際立って美しいですね(ヽ゜ω゜)ノ
Commented by Liger at 2015-12-28 20:15 x
前にもコメントしたんですが消えちゃったかな・・・
吉川 晃司が高校時代やってた。日体大が国内では無敵状態。昔少年サンデーに湘南爆走族の作者、吉田聡さんの『ちょっとヨロシク!』という漫画で、マイナースポーツ特集で題材に取り上げられていた。(自分も別ネタ用に吉田聡さんの取材受けた。)
水球について知ってることはこのくらいですが、詳細なご説明のお蔭で、リオ五輪時の楽しみが増えました。ドヤ顔で、薀蓄垂れてやろうかと(笑)。
Commented by bufbills at 2015-12-28 23:48
すみません。前回のコメント、気づいていませんでした。私が消しちゃいましたかね?

『ちょっとヨロシク!』は知りませんが、かなーり前に、たしか週刊少年ジャンプでも水球漫画を見掛けたことがありますね。帽子を被って恰好が悪いですし、漫画にしにくい題材なんで、スポーツモノとしては難しいかと。あと、1年くらい前に夜の11時くらいのドラマで水球をテーマにしたのがあったような気がします。タイトルも忘れましたが、ヤンキー(死語?)が水球に打ち込む青春群像劇みたいな。

吉川晃司は広島修道でしたかね。彼は25mを25秒くらいで泳ぐエリートです。モニカとか歌ってた頃には全く知りませんでしたが、時が流れるとイロイロ分かることもありますねぇ。
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